テレワーク導入が進むと、紙書類だけでは運用が難しくなり書類のデジタル化が必須となってきます。
この記事では、テレワークの運用から、書類のデジタル化をわかりやすく解説します
テレワークの類型と導入への3つの留意点
テレワークとは?
政府が目指した新型コロナ対策、「テレワークによるオフィス出勤者数7割削減」、にある「テレワーク」は「在宅勤務」とする人も多いのですが、(一社)日本テレワーク協会によると、テレワークの形態には「在宅勤務」以外に「モバイル勤務」「サテライトオフィス勤務」、さらに「ワーケーション」があり、現在は3+1類型となっています。そして、テレワークとは「情報通信技術(ICT)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」と定義されています。
テレワーク導入の3つの留意点
日本テレワーク協会によると、テレワーク導入に際しては3つの留意点があるとされます。
- 労務管理方法
- 情報通信システム・機器
- テレワーカーの執務環境の検討
この3つの留意点に沿ったインフラを整えないと様々な問題が生じ、業務がうまく遂行できない事態になりかねません。
今回のテーマである、書類のデジタル化・ペーパーレス化は、③テレワーカーの執務環境の検討に入る項目ですが、必要書類が紙文書でオフィスに保管されていると、テレワークを行う場所まで持ち出して業務を行い、終了したら元のオフィス保管場所に返却しなければなりません。つまり、オフィス出勤が必要となるのです。
※参考:日本テレワーク協会サイト
業務のペーパーレス化
必要書類がデジタル化されてリモートアクセス可能なサーバーなどに保管されていれば、通信インフラが整備された場所で、電子機器を利用していつでも業務が可能になります。テレワークを行うには、書類のデジタル化が必須の要件になるということです。
ところが、日本の決裁システムで一般化している稟議制度ですが、稟議書を紙文書で作成し、関係者や決裁者の認否にハンコを押印することで回覧していくやり方が基本形です。関係者や決裁者に当該紙稟議書を移動し、押印してもらう必要から、時間がかかる上に、当該者に見てもらうためにオフィス出勤の必要性が出てきます。
稟議書をデジタル化し、電子化した稟議決裁システムを導入することはテレワーク遂行にとって非常に重要な要件になります。
テレワークに必須である文書の電子化、ペーパーレス化
電子文書と電子化文書の違い
テレワーク遂行には文書の電子化、ペーパーレス化が必須なのですが、そもそもデジタル文書には「電子文書」と「電子化文書」の2つがあります。
「電子文書」は、最初からパソコン等を使用し、WordやExcel、CAD、会計ソフトなどのソフトウェアで作成し保存された文書のことを指します。
一方「電子化文書」とは、「スキャナなど文書読み取り装置を利用して書面を画像情報として電子化した文書情報」(JIS Z 6015)を指し、別名、スキャン文書、イメージ文書とも言います。 イメージ情報なので、基本的には文書内の文字情報の検索や修正はできません。
ここでは、電子文書と電子化文書を合わせて「デジタル文書」と略して進めます
デジタル文書に関する国内の法律
デジタル文書に関する国内の法律は、1998年に施行された略称「電子帳簿保存法」と2005年に施行された略称「e‐文書法」の2種類があります。
「電子帳簿保存法」は国税庁が所管し、正式名が「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」として、国税関係帳簿書類に特定しているのに対し、「e‐文書法」は厚生労働省が所管し、民間事業者が行う書面の保存一般に関する法律になるので、「電子帳簿保存法」も包含しているといえます。どちらも施行当初、電子化文書は改ざんの有無の確認ができないなどの理由で、文書として認められていなかったのですが、2015年、2016年の法改正により、スキャナやスマホ、デジカメ撮影文書も文書として認可されるようになりました。ただし、電子帳簿保存法ではスキャナ保存の要件が詳細に定められているので、後述します。
e‐文書法の基本要件
e‐文書法には、デジタル文書としての基本要件が4つあります
-
見読性 内容が必要に応じ、直ちに表示、または書面に出力され、見やすいこと
-
完全性 保存期間中の消去、滅失、毀損を防ぎ、改ざんの未然防止、改ざんの有無の確認・検証ができること
- 機密性 不正アクセス防止、盗難、漏洩、盗み見を未然に防止がなされていること
- 検索性 必要なデータをすぐに検索でき、有効活用できること
スキャナ保存の要件
電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類に特定してスキャナ保存に関する詳細な要件が示されています。
例えば、紙の領収書を受領し、受領した社員がスキャナやスマホで読み取る場合、受領者が電子署名し、受領後3日以内に(一財)日本データ通信協会が認定した機関で「タイムスタンプ」の付与を受けることとされています。
タイムスタンプとは、郵便の消印のようなもので、認定機関が認定した時刻に当該電子データが存在していたことと、それ以降に改ざんされていないことを証明するためのものです。国税関係帳簿書類を扱う主幹部門は財務経理部門ですが、見積書や注文書といった、営業部門、調達部門などが関係する書類もあり、全社的な協力と徹底が必要なので、各企業としてペーパーレス化対応の方針を決める必要があります。
このスキャナ保存の要件も、2021年の「電子帳簿保存法」の改正で大きく緩和されることになりました。例えば、訂正・削除履歴の残るシステム・サービスを利用すれば、タイムスタンプの付与が不要になるなどで、2022年1月から施行されますので、詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。
テレワーク&ペーパーレス化に特に留意が必要な事務系職種
財務・経理
電子帳簿保存法の適用を主幹として受ける部署ですので、この法律を遵守してペーパーレス化を進めるにはスキャナ保存の要件や漏洩リスク対策について、詳細にわたる 留意が必要です。また、勘定系のデータは容量が重く、在宅勤務などで家庭内のWi-Fi機能だけではデータ取り込みに時間がかかることや、漏洩の心配があり、テレワークを行うには情報システム部と対応策の協議が必要です。
人事
社員のマイナンバーを保管し、各個人の労務管理データ、給与データなど個人情報満載の機密性が高い人事データを扱うので、こちらも漏洩リスク対策が必要です。
また、官公庁への提出書類も、まだまだ紙の定型書類が多く、テレワークには制限事項が多い職種です。
総務
こちらも官公庁への提出書類は紙の定型書類が多く、また、郵便物や宅配便の受け渡し、リアルオフィスの施設設備保守管理などで担当者は出社が必要です。
紙文書の廃棄選別と電子化の手順
現状でオフィス保管している紙書類を3つに分類する
現状のオフィスに、まだまだ紙文書が残っているケースでは、紙文書の廃棄選別と電子化を行う必要があります。
まず現存するオフィスの書類を「個人書類」「共有書類」「重要書類」に分けます。
「個人書類」は、個人の固定デスクにある仕掛書類や個人で収集した情報文書や書籍のことで、この管理、廃棄選別判断については、各個人の責任で行います。
「共有書類」は、業務を共有する組織の書類や書籍で、共有の保管場所に収納されるものですが、この管理、廃棄選別判断については、当該組織の管理者が責任者として行います。
「重要書類」は、共有書類の中でも、個人情報文書や機密性の高い文書で、施錠可能な収納場所に収納されるもので、鍵の管理者がこの書類の管理を行います。共有書類の一部なので、当該組織の管理者がこの鍵の保管責任者になることが一般的なので、上述の共有書類と同じ管理になります。
紙書類の廃棄基準(ルール)5例
書類を3つに分けたら、次の5つの廃棄基準(ルール)で廃棄を進めます。
- 長期利用なき文書は原則廃棄
保存年限が決まっている書類で、年限途中のものを除き、1年以上見ない文書は原則廃棄。 - 原本保管・複製(コピー)廃棄
同じ保管単位内で重複して共有保管している共有書類は原本以外原則廃棄 - 媒体変換(電子化)
製本された分厚い書籍などを除き、スキャンして電子化できる文書は、電子化文書を原本保管とし、スキャン後の紙文書は原則廃棄 - デスクの中や外にある個人書類は、引出しに入る範囲で選別し、あふれた文書は廃棄
やり方として、デスクから一旦、書類を全部出して、必要なものを選別し、引出しに収まる範囲で戻し入れ、残りは廃棄 - 共有保管庫にある個人書類は個人に戻し、共有書類は保存期間を決め、廃棄を判断
保存年限を決めていない共有書類はこの際、保存期限を設定し、保存期間3年以上の書類は外部倉庫などに移管してオフィス保管から外に出す。3年以内のものは上記①~③で判断し、廃棄実施
長期利用なき文書の再活用度
廃棄基準の①長期利用なき文書は原則廃棄、の根拠として、「ナレムコの統計」があります。これは、米国の記録学会NAREMCOが1946年に発表した統計で、「オフィスの書類で再び見る書類は、半年で10%、1年後ではわずか1%」というものです。
つまり、1年以上見ない書類は、99%廃棄してもほぼ問題ない、ということになります。
オフィス保管が必要な紙文書は全体の2割
まずは廃棄基準に沿って不要な書類を廃棄し、全体の40%削減を目指します。残った60%の書類については、できるだけ電子化を進め、残った書類はオフィスでの保管が必要かどうか?つまり、オフィス外で保管する(オフィス外にある書庫や、契約した外部倉庫での保管にする)ことを検討します。こうして、オフィスで保管する紙書類は全体の20%以内に抑えることを目標にします。
デジタル文書管理への移行フロー
オフィス内の紙書類の廃棄と電子化への手順としては、まず、廃棄基準に沿って廃棄可能かどうか?
廃棄不能な場合、電子化できるかどうかを判断します。
廃棄基準③では、電子化した後の紙書類は廃棄しますが、紙書類としても並行して保存が必要な書類もあるので、その場合は外部倉庫などで保存管理し、まずはオフィス内の保管は避けることです。こうしてできるだけスキャナで読み取り、PDFなどの電子化文書にしてペーパーレス化を図ります。
そして、どうしても紙書類保管が必要な場合、保存年限を定めて、オフィス外での保管保存ができないかを検討します。
デジタル文書の共有サーバー内整理とタイトル表示
デジタル文書の共有サーバー内の保存留意点
パソコンでデジタル文書を検索するには、ファイル名や電子文書の文章内の単語をキーワード検索することで探索可能ですが、効率が悪いのでモニター画面上で探すことも多いため、共有サーバー内にデジタル文書、フォルダーを保存する際の留意点を掲げます。
*「フォルダーと文書ファイルが混在することは避ける」
デジタル文書では、アプリソフトのアイコンで表示される「ファイル」(ExcelやWordなど)と、それを複数収納する「フォルダー」が唯一の収納具なので、フォルダーの中にさらにフォルダーを持てば、管理する階層は限りなく増やせます。
しかし、階層が深くなると探索時間が長くなることに加え、画面上の階層に、ファイルとフォルダーが混在していると検索しにくくなります。
当該階層に探しているファイルを見つけても、実は、その同じ階層にあるフォルダーに最新の修正ファイルが存在していた、ということもあるため、同一階層には(一画面上には)ファイルだけが並んでいる、あるいはフォルダーだけが並んでいるような保存形態にしておくことが必要です。
ファイル・フォルダーのネーミング
*「フォルダー名、文書名は工夫して、順序よく並ぶようにする(自動ソート機能を生かす)」
- 文書作成年月日を略称で必ず明記する(2021年10月26日は211026、など)
- タイトル頭に読み仮名1字を半角カタカナで入れる(シ_新入社員研修テキスト、など)
- バージョンがよく変動する文書では頭に連番を半角で入れる(03_〇〇PJ企画書、など)
共有書類のタイトル名については、次項で述べる(一社)日本経営協会の「分類整理法」が参考になりますので、是非参考にしてみてください。
サーバー内整理
*「フォルダー数は1画面上、最大20個にとどめる」
フォルダーだけの階層を作る場合、当該階層(画面上)のフォルダー数は20個までにとどめたほうが、検索しやすいです。
また、フォルダーを作成して、まとまりある複数のファイルを収納する場合、このまとまりの作り方として、日本経営協会の分類整理法が参考になります。
共有サーバー内フォルダー分類体系表と維持管理
フォルダー体系表の策定
サーバー内保存のルールを決めるには、階層フォルダーの分類構造を設計し、これをフォルダー分類体系表としてまとめ、サーバーを共有するメンバーの同意を得ます。分類構造は、紙文書では大分類、中分類、小分類の3階層にしますが、サーバー内ではフォルダーを置けば、限りなく階層は作れるのでこの体系表をしっかり作ることが維持管理にもつながります。
デジタル文書のサーバー内フォルダー分類構造
階層上位の第1階層、第2階層くらいのルールとして、お勧めするのは組織、業務による分類です。紙書類では「ワリツケ方式」と呼ばれるやり方で、ここでは部門ごとに共有サーバーが設置されているとして、「人事総務部」のサーバーを例にします。
図は、当該人事総務部の組織と担当業務、図の右端には業務として作成された文書例を示しています。これをフォルダー分類構造に置き換えます。
第1階層には、当該部に所属する「課」をフォルダーとして設け、第2階層では、各課の業務をフォルダーとして設置します。第3階層では、各業務の中で発生する個別業務を掲げています。さらに第4階層は第3階層のフォルダーの中に保存するファイルを掲げました。このようにして、各業務階層の最終階層には、ファイルだけが存在する階層となるように設計します。そして、この各階層に保存されているフォルダーやファイルを階層ごとに書き出して分類体系化したものがフォルダー体系表になります。
常にクリアデスクトップを意識する
パソコン使用でのテレワークですから、パソコンがスムーズに起動し、フリーズしないことが必要です。このために、デスクトップ画面は常にクリアデスクトップを心がけましょう。
デスクトップ画面に所せましとファイルやフォルダー、アプリのアイコンが並んでいると起動が遅くなるだけでなく、探したいファイルやアプリがどこにあるのか、発見しにくくなります。
まとめ
以上、紙書類のデジタルファイリング化と、サーバー内整理により、テレワークがスムーズに遂行できる環境を整える方法をお伝えしました。
これらの作業を行う過程で業務遂行の見直しや効率化が進めば、働き方改革にもつながると思われます。
コロナ禍で必然的に遂行せざるを得なかったテレワークのためのインフラを、この機会に実現し、オフィスワークの生産性向上に結び付けていただければ幸いです
記事作成:Ichiya & Associates
コンサルタント 一箭 憲作氏
(ファイリングデザイナー1級)
コクヨマーケティング株式会社は、年間25,000件以上の豊富な実績から、お客様の働き方に合わせた空間提案が可能です。
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