近年、オフィススペースの有効活用や社員間のコミュニケーション活性化を図るため、多くの企業がフリーアドレス制を取り入れてきました。さらに、デジタル技術の進歩や働き方の多様化に伴い、リモートワークが一般的になったことで、フリーアドレス化の流れが加速しています。
しかし、最近では「オフィス回帰」の動きが見られるようになってきています。それに伴い、フリーアドレスを導入したものの、「席が足りない」という新たな課題に直面するケースが増えています。当初の想定を上回る出社率により、十分だと考えられていた座席数が実際には不足しているという事態が起きているようです。
この「席不足」の問題に対しては、様々な解決策が考えられます。本記事では、フリーアドレスで席が足りない状況を招く原因や、その解決方法について詳しく説明していきます。
フリーアドレスの座席不足が起こる原因
フリーアドレス制を導入したにもかかわらず席が不足する事態に陥る背景には、いくつかの共通した要因があります。主な要因として以下の5点が挙げられます。
導入目的が不明確
フリーアドレス導入の目的が不明確な場合、座席不足などの問題が発生する可能性があります。適切な目的設定と自社分析を怠ると、従業員の生産性やモチベーションの低下を招く恐れがあるため、自社の現状と目指すべき姿を明確にした綿密な計画が不可欠です。
フリーアドレス導入の目的は、オフィススペースの効率化や労働環境の改善、部署間コミュニケーションの活性化など多岐にわたります。しかし、導入自体が目的化すると、自社の実情に合わないワークスタイルを取り入れてしまう危険性があります。
例えば、他社のオフィスデザインを安易に真似ると、自社の業務形態に合わず、席数不足などの問題が生じる可能性があります。このような問題を回避するには、自社独自のワークスタイルや業務形態を綿密に分析し、適したレイアウトを設計することが重要です。また、導入後も定期的に効果を検証し、調整を行うことが重要です。
不適切な計画・設計
出社率の予測や従業員の働き方の分析が不十分なまま、フリーアドレス化を進めてしまうケースが見られます。特に、コロナ禍の一時的な低い出社率を基準に座席を設定し、その後の状況変化に対して、レイアウトをアップデートできていないケースも少なくありません。このような場合、結果として、実際の需要に見合わない席数やレイアウトになってしまい、効率的なオフィス運用の妨げとなる可能性があります。
座席の可視化不足
フリーアドレス環境では、どの席が空いているかが一目で分かりにくい場合があります。特に広いオフィスや複数フロア別れている場合、このような問題が発生するケースがあります。これにより、実際には空席があるにもかかわらず、「席が足りない」と感じてしまう状況が生まれます。
リモートワーク環境の未整備
フリーアドレス制の成功には、オフィス外での業務環境の整備も重要です。リモートワークの環境が十分に整っていないと、必要以上にオフィスへの出社が増え、席不足につながる可能性があります。
運用ルールが決まっていない、周知されていない
フリーアドレスの効果的な運用には、明確なルールとその周知が不可欠です。例えば、長時間の席の占有や私物の放置を禁止するなどのルールが決まっていない、または従業員に十分周知されていない場合、一部の席が効率的に利用されず、結果として席不足を引き起こす可能性があります。
これらの要因を理解し、適切に対処することが、フリーアドレス席不足問題の解決への第一歩となります。各要因に対して具体的な対策を講じることで、より効果的なフリーアドレス運用が可能になるでしょう。
関連記事:フリーアドレスを苦痛に感じる理由
フリーアドレスの座席不足を解消する方法
フリーアドレスオフィスで座席不足が発生した場合、以下の方法で問題を解消することができます。これらの解決策を組み合わせることで、より効果的に座席不足に対処できるでしょう。
座席予約システムの導入
広いオフィスでは十分な席があっても、空いている場所を見つけにくいことがあります。
そのような場合は、座席予約システムを導入することで、効率的な座席利用が可能になります。従業員は事前に座席を予約でき、管理者側も座席の利用状況を把握しやすくなります。これにより、「座席があるかどうか分からない」という不安を解消し、出社の計画を立てやすくなります。
また、抽選型の座席予約システムを導入することで「毎日、特定の人が同じ座席に座り続ける」といった問題の解消にもつながります。
フリーアドレスの座席利用状況の可視化については、こちらの記事も併せてご覧ください。
共用スペースの有効活用
休憩スペースなど、普段は別の用途で使用しているエリアを作業スペースとして開放することで、座席不足を緩和できます。この際、多目的に使用できる家具の導入やWi-Fi、電源の整備、明確な利用ルールの設定と周知が重要になります。
例えば、リフレッシュスペースに「パソコン用の電源やモニターを増設」したり、「ランチタイム中は、休憩利用者を優先し、業務利用はNGとする」など、ハード面、ソフト面で環境整備することにより、柔軟な働き方を支援できます。
休憩やミーティング、ソロワークなど多目的に使用できるリフレッシュスペース|株式会社ソディック様|オフィスデザイン事例
また、休憩している人が気兼ねなくゆっくりと休めるように、業務スペースと休憩スペースの間に目隠しをするなどの工夫も併せて検討しましょう。このようなバランスの取れた空間設計により、社員の生産性と快適性の両立が可能になります。
周囲の視線を遮るヘッドシェード付きのチェアー|高円宮記念JFA夢フィールド様|オフィスデザイン事例
レイアウトの最適化
オフィスのレイアウトを見直し、スペースの有効活用を図ることで、より効率的な座席配置が可能になります。フリーアドレスの効果を最大化するためには、以下の点に注意が必要です。
フリーアドレスの対象者を適切に定める
やみくもに全社員を対象とするのではなく、業務内容や働き方に応じて対象者を選定します。例えば、営業職や柔軟な働き方が求められるプロジェクトチームなどが適していますが、常時デスクにいる必要がある業務は対象外とすることも検討しましょう。
フリーアドレス対象者の出社率を確認する
オフィスの出社率を調査するには、入退室管理システムのデータなどを活用し、曜日や時間ごとの出社人数を把握します。この際、曜日や月による変動を注意深くチェックし、変動する時期と理由を把握することが重要です。これにより、現実的に必要な席数を正確に見積もることができます。また、アンケート調査などを併せて実施することで、従業員の出社パターンや在宅勤務の頻度などの情報を収集することもできます。
必要な座席設定数を計算し、適切な数の席を設置する
フリーアドレス席数は、対象者数と平均出社率を基に計算します。計算式は以下の通りです。
フリーアドレス席数 = 対象者数 × 平均出社率 × (1 + 余裕率)
計算例を挙げると、フリーアドレス対象者が100名で、平均出社率が70%の場合は、 必要最小席数 = 100名 × 70% = 70席 ここで10%の余裕を持たせると、フリーアドレス席数 = 70席 × (1 + 0.1) = 77席となります。
コロナ禍にフリーアドレスを導入した場合は、出社率を50%前後として、必要な座席数を設定しているケースも少なくありません。そのような場合は、直近の出社率を踏まえて今の働き方に適した座席数を改めて確認しましょう。
クリーンデスクポリシーの推進
荷物を置きっぱなしにして座席を長時間占有することを防ぐため、クリーンデスクの徹底が重要です。これにより、座席の効率的な利用と回転率の向上が期待できます。例えば、外出時やミーティングなどで一定時間(2時間以上など)離席する場合は、個人の荷物を撤去し、次の利用者が使えるようにするルールを設けることが効果的です。このような取り組みは、限られた座席を公平に共有し、フリーアドレスの利点を最大限に活かすことにつながります。また、整理整頓された清潔なワークスペースは、従業員の生産性向上にも寄与します。
フリーアドレスの運用ルールについては、以下の記事も併せてご覧ください。
クリーンデスクについてはこちらの記事で解説しています。
レイアウトや座席設定数の見直し等では対応できない場合
前述のレイアウト変更や座席設定数の見直しなどの方法で解決できない場合、より大規模な対策が必要となります。
広い物件への移転
一つの選択肢として、より広い物件への完全な移転が考えられます。これにより、十分な座席数を確保しつつ、新たな働き方に適したオフィス環境を一から構築することができます。移転は大規模な変更ですが、長期的な視点で最適なオフィス環境を実現できる可能性があります。
オフィス移転の進め方や成功のポイントは以下の記事でご紹介していますので、併せてご覧ください。
同じビル内でのフロア増床
移転が難しい場合や、現在の立地を維持したい場合は、同じビル内での拡張も検討に値します。例えば、別フロアの一部や全体を借り増しすることで、必要なスペースを確保しつつ、既存のオフィスとの連携も維持できます。
この方法は、移転に比べてコストや労力を抑えられる可能性があり、段階的な拡張にも対応しやすいという利点があります。ただし、タイミングよく同じビル内で空きフロアがあることが条件となるため、オーナーや不動産管理会社と早めに相談し、将来の空室情報や拡張の可能性について確認しておくことが重要です。
分散型オフィス戦略の採用
メインオフィスの拡張や移転が困難な場合、サテライトオフィスの設置やコワーキングスペースの活用など、分散型オフィス戦略の採用も考えられます。これにより、特定の場所への過度な集中を避けつつ、従業員の利便性を高めることができます。
ハイブリッドワークモデルの強化
オフィススペースの物理的な拡張が難しい場合、リモートワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワークモデルをさらに強化することで、オフィスの収容能力の問題を緩和できる可能性があります。
ハイブリッドワークの導入方法や成功のポイントは以下の記事でご紹介していますので併せてご覧ください。
いずれの対策を選択する場合も、単にスペースの問題を解決するだけでなく、従業員の働き方やコミュニケーションの質を向上させる機会として捉え、総合的なワークプレイス戦略の一環として検討することが重要です。
まとめ
フリーアドレスにおける座席不足の問題は、単なるスペースの問題ではなく、組織全体の働き方や生産性に影響を与える重要な課題です。この問題を解決するためには、まず導入目的を明確にし、適切な計画を立てることが不可欠です。対象者の適切な選定と座席数の正確な計算、レイアウトの最適化と共用スペースの有効活用、そしてクリーンデスクポリシーの徹底など、多角的なアプローチが求められます。
さらに、状況に応じてオフィス移転やフロア増床などの拡張策、あるいは分散型オフィス戦略やハイブリッドワークモデルの導入も検討する必要があるでしょう。これらの対策を組み合わせることで、フリーアドレスの利点を最大限に活かしつつ、座席不足の問題を解決できる可能性が高まります。
しかし、最適な解決策は状況によって異なります。コクヨマーケティングでは、フリーアドレス用の家具やレイアウトのご提案はもちろんのこと、実際にそこで働く方の視点に立った、快適に働くための運用方法や維持管理に関することまで幅広くご提案いたします。フリーアドレス実施に伴うレイアウトの変更やオフィス移転などを検討中の方は、ぜひ、お問合せください。
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